地球温暖化の真実: ⑨ 1000年後の君へ

Published: June 20, 2024, 3:45 a.m. (UTC) / Updated: June 20, 2024, 6:38 a.m. (UTC) 🔖 0 Bookmarks
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世界の電源ポリシーは超長期でどう考えるべきか?

ここまでの議論を俯瞰して結論を示すと、要は原子力発電で安い電力を供給して時間稼ぎをしている間に再生可能エネルギーの技術革新を行って、最終的には原子力発電と化石燃料発電を廃止する。また豊かな森林を作ることで過去に排出してきたCO2 を長期固定することが必要なことが分かる。但し、原子力発電への依存期間が長くなると「5 万年も管理出来ない問題」が深刻化する。そして少なくともすでにその問題は発生している。すると政策上の選択肢の基本構造は、原子力発電に関する「事故リスクや5 万年問題の負担の期待値」と、CO2 排出を許した場合の「最終的なリスクシナリオの負担の期待値」の天秤を采配するという問題に帰着する


ここで特に課題があるのはCO2 排出を許した場合の「最終的なリスクシナリオの負担の期待値」の方だ。これをどうやって整理するのかすら良く分からない。ICPP は2100 年までのシナリオしか提示していないのだが、2050 年までにカーボンニュートラルが実現する前提で楽観的にとらえているのかも知れないが、温暖化効果がストックで効いてくることを考慮するともう少し悲観的になって2500 年までなど超長期的将来までシミュレーションする必要があるだろう。


少なくともっまだまだ多くの人々は「気温が$2^{\circ}C$ 上昇しても人類が滅亡する訳でもないし、大して困る訳でもない」と思っているだろう。その意味で、人類滅亡までの残余カーボンバジェットを計算する位の研究はなされる必要があり、その人類滅亡の危機問題に比べれば、原子力発電を一時的に用いた方が断然良いと言えれば話は簡単になる。

$CO_2$ 濃度が大幅に増えるとどうなるかもう一度よく考える必要がある

温室効果が無い場合の地球の大気の平均気温は$−18^{\circ}C$ であった。地球の大気にはたった0.04% (400ppm) しか$CO_2$ が含まれていないのに、平均気温が$14^{\circ}C$ まで上昇している(但し、これには水蒸気などによる温室効果の影響もある)。この$CO_2$ 濃度が倍以上になったらどうなるのか?普通に考えて気温は相当上昇することだろう。


この問題のヒントを探るために金星を見てみよう。金星の質量は地球の0.815倍程度でやや小ぶりだが比較しやすい。金星の大気は96.5% が$CO_2$ であり、表面温度は$464^{\circ}C$ と猛烈に熱い。二酸化炭素がここまで増加するシナリオは地球では考える必要は無さそうだが、金星がどのようにしてCO2 によって熱せられているのかを知ることは有意義だ。


前までの章で用いた簡易な数理モデルによれば、$CO_2$ 濃度が800ppm に達した場合の地球の平均気温は約$18^{\circ}C$ 程度である。しかし、このモデルは金星のような極端な世界を記述するための重要なファクターの影響が抜け落ちている。飽和水蒸気量の上昇と黒体放射の変移だ。

  • 1. 飽和水蒸気量の影響:
    大気の温度が上がると、飽和水蒸気量が増える。つまり大気中に含まれる水分の量が増える。この結果、温室効果ガスである水蒸気による温暖化効果がより強化される。つまり、地球温暖化は更に悪い方向に進行する。
  • 2. 黒体放射の影響:
    水蒸気の影響まで考えただけでは多少の気温上昇で済むのだが、仮に地球の
    平均気温が10 度も上昇した場合、地表面の黒体放射の分布が大きく変わってしまう効果が無視できない。平均気温が上がると黒体放射の分布が変わる、ということは定性的には「熱せられた地表面から放出される赤外線エネルギー量が増加する」ということを意味する。金星の気温が猛烈に熱いのもこのメカニズムの役割が非常に大きい。

水蒸気の影響に加えてこの黒体放射の影響まで数理モデルに取り込むと、$CO_2$濃度が800ppm に達した場合の地球の平均気温は約$30.6^{\circ}C$ 程度まで上昇する可能性がある(詳細はAppendix 参照)。こうなると、不安定な気温に拍車がかかり大旱魃と大雨、大洪水、熱波、豪雪が厳しくなる。野生の動植物も多くが住める環境の著しい変化に適応出来ずに絶滅するだろう。無論1 次産業は壊滅的な被害を被り食料不安により人類は大きく人口を減らすことになるだろう。この気温は人類にとって危機なインパクトがある。

以下の図は上記の数理モデルで、$CO_2$ 濃度を0から2000ppm まで上昇させた場合の地球の平均気温の変化のシミュレーション結果である。2000ppm となると、(さすがに金星のように$400^{\circ}C$ 超えとはならないまでも)平均気温が$40^{\circ}C$ を超える可能性が示唆される。こうなる前に人類の人口は殆ど残っていないかも知れないが。



提言

ここまでの議論をまとめて、以下の結論と提言を行う。

リーダーへのメッセージ

  1. CO2 や地球温暖化を甘く見るべきではない。CO2 濃度の極端な上昇は極地的な原発事故のリスクより遥かに危険である。
  2. 電源構成については、当面は原子力発電で安い電力を供給して時間稼ぎをしている間に再生可能エネルギーの技術革新を行って、最終的には原子力発電と化石燃料発電を廃止する必要がある。また豊かな森林を作り国家として維持管理することで過去に排出してきたCO2 を長期固定することが必要。
  3. 電力等のエネルギーを消費する産業セクターにおいては十分な資金が研究や開発に投入されているが、主な炭素吸収源である森林セクターには十分な予算が行きわたる仕組みになっていない場合が多い。電力消費セクターから森林セクターへの資金の流れを作ることで森林セクターの活性化・技術開発を促進する必要がある。
  4. 重要なことはこうしたビジョンを人々に提示することである。超長期のビジョンが無いから人々が足元の状況を見て各々立場からバラバラな意見を言うため収集がつかなくなる。

IPCCやCOP等の国際間の協調に望まれること

  1. 2050 年までにカーボンニュートラル達成という政治的スローガンが出てきている点は良いが、これが実現出来ない可能性も十分にあることを考慮する必要がある。
  2. IPCC は2100 年までの予想でシナリオを提示しているが、2100 年より後の世界でカーボンニュートラルが実現出来ていない場合どうなるのかをより明確なビジョンを持ち世界に発信していく必要がある。
  3. 仮に21 世紀後半でカーボンニュートラルが実現出来てもそこがゴールではない。「残余カーボンバジェット」は「まだ排出して良い」という誤ったメッセージを発信する可能性に注意して、既に排出してしまったCO2 が大気から消える訳ではない点を強調して発信する必要がある。産業革命前の健全な状態まで戻すためにはストックとしてのカーボンニュートラルの概念が重要であり、放置すると数百年から数千年の影響があることを人々に周知する必要がある。

研究機関に望まれること

  1. 超長期の数理モデルについてはより精緻なシミュレーションが可能なモデルが必要であり、その鍵を握るのは様々な実測値であることは言うまでもない。各関連学会や大学には、人々が容易に長期の予想やシナリオ別シミュレーションが出来るよう、判り易く統合された情報開示を工夫して頂きたい。
  2. 長期の人口動態予測はエネルギー需要を予測する上で鍵となる。特に2100年以降の人口動態予想のデータは現在は公表されたものは無いが、超長期の地球温暖化を考える上ではこの情報が鍵となるため国連をはじめ関係機関には是非力を入れてもらいたい。

市民に望まれること

残念ながら地球温暖化の議論は、政治利用されており、政治利用されているからこそメディアで取り上げられているふしがある。また、そのような状況に市民が辟易してしまうが故に地球温暖化の議論自体が眉唾であると信頼性を損なってしまっている傾向も見られる。


しかし、政治がどう転ぼうが、自然界には関係ない。
1000 年後、あなたの子供たちが命をつないで人類が生き残っていたとしたら、21 世紀の人類は正しいことをしたと評価するだろうか。胸に手を当てて考えてみて欲しい。

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