地球温暖化の真実: ③地球大気の歴史

Published: Nov. 7, 2023, 1:56 a.m. (UTC) / Updated: Nov. 25, 2024, 1:05 a.m. (UTC) 🔖 3 Bookmarks
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日本語

初歩的な言葉の整理

氷河期というと多くの人はディズニーの映画でマンモスやサーベルタイガーが出てくるIce Ageを思い出すのではないだろうか。そして氷河期は映画のように氷に覆われた世界を想像している人が多いのではないだろうか。実はこの理解は若干の修正が必要だ。
  
まず日本語の氷河期は氷河学的には氷河時代(ice age)といい、簡単に言うと地球上に大規模な氷床が存在する時代のことだ。もう少し詳しくすると氷河時代は、地球の気候が寒冷化し、地表と大気の温度が長期にわたって低下する期間で、極地の大陸氷床や高山域に氷河が群在または拡大する時代だ。現在の地球はグリーンランドや南極のように大規模な氷床が存在するので、現在も氷河時代、即ちアイス・エイジだ。現在の氷河時代は約260万年前に始まった第四紀氷河時代という。ちなみにマンモスは400万年前から1万年前頃まで生息していたようなので第三氷河期から第四氷河期の間に地球に生息したということになる。
  
また長期に及ぶ氷河時代のうち、特に寒冷な気候の期間は氷期と呼ばれ、氷期と氷期の間の断続的な温暖期は間氷期と呼ばれる。直近の250万年を見ると間氷期はおよそ4万~10万年に一回くらい訪れており、その間は長い氷期である。現在は間氷期だが直前の氷期はおよそ7万年前に始めり1万年前に終わったとされる。氷期が終わり間氷期になり地球が温暖になってきた頃、人類は旧石器時代から新石器時代へと移り農耕による食料生産が始まった。

地球の黎明期

超長期の地球の大気の歴史は現在でも研究の進展が期待される分野で、良くわからないことも多い。特に、温暖化の文脈の類推でいくと「氷期は気温と$CO_2$濃度が低くて間氷期は反対に気温と$CO_2$濃度が高い。これは$CO_2$濃度が高くなったことが原因で気温が上昇したからである」という綺麗な結果があると分かりやすいのだが、そんな単純な話ではない。
  
今日の科学的なコンセンサスでは、大気が3つのステージで進化してきたとされている。地球という惑星が形成される頃、太陽系はヘリウムと水素の濃度が高く、地球表面で非常に高い温度で跳ね返っていた。やがて、これらの分子は宇宙空間に逃げ出し、第2の大気である火山噴出物に取って代わられた。火山噴火によって、水蒸気、二酸化炭素、アンモニア(窒素1個と水素3個)が放出され、上空にはガス状のブランケットが、下には初期の水域が形成された。CO2は徐々に浅い海に溶け込み、27億年前にシアノバクテリアが酸素を発生する光合成を行うようになったと言われている。この酸素はやがて蓄積され、約24億年前、当時存在したほとんどの微生物を死滅させるほど大気組成が変化した。

数億年前の「別の惑星地球」の姿

$CO_2$濃度の推移

産業革命前の$CO_2$濃度は約280ppmで、現在では約420ppmに達している。これは超長期の地球の歴史の中ではどの位の水準なのだろうか?超長期の$CO_2$の水準の推移を見てみよう。

$CO_2$濃度は、地球の45億4千万年の歴史の中で大きく変化し、地球の平均気温を変化させる一因であった。$CO_2$濃度が推定されている最も遠い時代は、5億年前のオルドビス紀あたりで当時の大気中のCO2濃度は、なんと3,000~9,000ppm!現在の地球とはだいぶ様子が異なる。その後、4億年前は2,000ppmでそこから乱高下した。$CO_2$濃度の変化は、炭素の固定(堆積物への埋没、植物による捕獲)と排出(分解、火山活動)のバランスの崩れによって決まる。このバランスの崩れにより、$CO_2$濃度が低下し、約3億年前に氷河期が到来した。
  
その後火山活動が活発になり、$CO_2$濃度は約1,000ppmまで倍増した。2億年前には巨大なシダの森が出現し、その後、$CO_2$濃度は低下し続け現在の濃度になったのは、気温が現在より4〜6℃高かった3,300万年〜2,300万年前の漸新世である。2,000万年前に400ppmを下回ってからは現在まで400ppmに達したことは無かったので、現在の$CO_2$濃度は約2,000万年ぶりの事象ということになる。

気温の推移

次に気温の歴史を見てみよう。



上図を見ると5億年前の平均気温は産業革命前より約$14{}^\circ C$程度高かった。3億年前の氷河期には産業革命前より約$4{}^\circ C$も低い値に達してその後、5,000万年前に再び産業革命前より約$14{}^\circ C$程度高い状態になり、そこから100万年前までなだからな下降線となって現在の気候に近づいてきた。こうしてみると足元の地球温暖化の程度は長い地球の歴史からみると大した変動ではないように思われる。地球上の生命はもっと過酷な環境に適応して進化して生き延びてきたのだ。


ところで、$CO_2$の濃度の変化の図と気温の推移の変化の図を見比べてみて欲しい。似ている動き方をしている部分もあるが全然似ていない部分も多いことが分かるだろう。この点については後でもう一度別の研究を紹介する。

その他の地球の状況の大きな違い

まずミランコビッチサイクルによる影響が欠かせない。

  • 地軸傾動(自転軸の傾きの周期的変化):太陽と木星や火星などの惑星の重力相互作用により、地球の自転軸は、22度から24.5度くらいのあいだを4万年周期で変化
  • 歳差運動:自転軸の方向も現在の北極星から、織り姫星として知られる琴座のベガへと約2万年周期で変わる
  • 離心率変動:太陽に近い時期/遠い時期の季節が変わり、季節性が変化。さらに、太陽の周りを地球が回る軌道の形も、10万年、40.5万年、200万年〜数1000万年といった周期で変化し、これらにともなって季節性がさらに変化する

これらの地球軌道変化の周期を「ミランコビッチ・サイクル」と言う。

ここで、過去の地球の軌道は現代のコンピューターがあれば簡単に得られる気もするが、多分そうでもない。惑星多体系のコンピュータシミュレーションを行って、例えば5億年前の1時点の地球の状態(および太陽系の状態)を再現するというのは極めて困難なはずで、様々な推定を含めて当時の地球の軌道や地軸はこれ位だったはずと推定するしかないはずだ(これはあくまでも筆者の推定だが多分正しい。この辺の正しい文献があれば教えて欲しい)。但し、例えば地軸の傾きが変われば現在の北極や南極の日照条件も異なるし、歳差運動で自転の方向は大きく変わるためこれも日照条件に大きな影響を与える。更に公転周期が変わり太陽と地球との距離が現在と異なる場合にも当然季節性が大きく変わることだろう。ちなみに20億年前は自転の速度も異なっていて1日は20時間程度だったという説もある。

ちなみにミランコビッチサイクルに関連した研究による予測によれば、次の氷期が始まるのは、人為的な地球温暖化を無視することが出来たとして、少なくとも今から5万年後になるだろうと示唆されている。ここで我々が知っておくべきことは、細かい条件の違いではなく、超長期の昔の地球の状況は現在とは大きくなっていたということである。
この数億円という期間に、ミランコビッチサイクルにより日照条件が大きく変化し、植物や生物の進化や絶滅が起き炭素固定の条件も変化し、火山活動によって大気の組成も大幅に変化し、プレートの移動が起き(山脈の形成による気候変化など)、太陽の温度も変化した。

数億年前位の地球と今の地球とは、考えるべき条件が違い過ぎて、かつ良く分かっていないことも多く、諸条件も複雑に絡まりあっていることもあり、単純に億年単位の大昔を見ても現在と横比較は出来ない、ということを理解する必要がある。気軽に地球温暖化の議論と大昔の地球の状況の話題を結び付けようとする言説に対しては、自分が素人なら地球とよく似た別の惑星の話だと思っておく位の距離感が丁度いいように思う。

太古の$CO_2$濃度と気候はあまり関係していない

公平のために繰り返し述べておく必要があるが、古気象学の最近の研究結果からは、過去の地球の$CO_2$濃度が高い時期や低い時期があったが、それと当時の気温の関係を見ると明確な関係は確認出来ていない。 以下の図では5億年前から現在までの$CO_2$ 濃度が相対値として示されており、図上部の灰色の影が掛かっている領域が地球の気候が比較的涼しかった時期に対応し、その間の白いスペースは温暖な時期に対応する。$CO_2$濃度が濃ければ気温が高くなければならないとすれば、図上部の灰色の影が掛かっている場所の$CO_2$濃度は低位で推移していなければ辻褄が合わないのだが、そのようにはなっていない。

無論、だからといって地球温暖化の議論はフェイクだということにはならない。上記に述べた通り太古の事実を調べるには膨大な時間が必要であり、包括的な事実が出そろって理解が定着するまでもうしばらく時間がかかると筆者は考えている。

最後の氷河時代以降の地球

いつ頃の地球から横比較していいのか?

例えば1億5,000万年前の地球は、ジュラ紀の終わりで恐竜時代の真っ盛りだが、大気の温度は現在より$5-6{}^\circ C$も高かく$CO_2$濃度も1,000ppmに達しており現在の地球とは全く異なる様相を呈している。では白亜紀が終わり恐竜時代も終焉を迎えた5000万年前はどうだろう。この時代の大気の温度は現在より$14{}^\circ C$も高かく$CO_2$濃度もやはり1,000ppmに達しており現在の地球とは全く異なる様相を呈している。こうした地球と現在の地球を横比較するのは諸前提が大きく異なっている可能性があり危険だろう。
  
足元の氷河期である第四氷河時代は約260万年前に始まったとされるが、この氷河時代の中に、比較的温暖な間氷期と冷たい氷期がある。最後の氷期は現在の氷河時代における最後の氷期で、更新世の約11万年前に始まり、約10,000~15,000年前に終わったとされる。もし、現在の地球と横比較して温暖化関連の議論をしたいと思うのであれば、この最後の氷河時代の中でも特に定常的な氷期と間氷期の周期が確立していった100万年前位からのデータが有効なのではないかと考えられる。但し、こうした氷期-間氷期のサイクルと同じ位のタイムスケールで物事を考える際には、次に示すようなまた別の地球レベルのフィードバックループの可能性も視野に入れるべきかも知れない(要は昔の地球環境と現在の地球環境との横比較は難しいということだ)。

固体としての地球は割と柔らかい

これまで、数百万年以上の長期では「固体地球のプロセスが地球の気候を支配する」という因果関係が知られてた。しかし、2021年に加藤らの研究チームが、氷期-間氷期サイクルという数万年スケールの変動においては「気候変動に対して固体地球が鋭敏に応答する」という逆の因果関係があることを示した。

氷期には氷床が発達することで海水準が低下する。その結果、海底にかかる静水圧が減少し、中央海嶺や島弧などに分布する海底火山でのマグマ生成が促進される。こうした氷期-間氷期サイクルにおける大陸氷床の発達と後退という気候変動要因が、陸上岩石の化学風化と海底下のマグマによる熱水活動という2つの固体地球プロセスに影響を与えてきたことが明らかになった。
  
この結果として例えば次のようなサイクルが存在する可能性が考えらる。

  1. 氷期に氷床が発達
  2. 海水準が低下
  3. 海底火山が活発化
  4. 海が熱せられ + 二酸化炭素が火山から放出される
  5. 地球が温まる
  6. 氷床が溶けて後退する
  7. 海水準が上昇する
  8. 海水の重みで海底火山が沈静化
  9. 海が冷えて火山からの二酸化炭素排出も減少
  10. 植物等による炭素固定
  11. 地球の冷却化
  12. 極地を中心に氷床が発達(はじめに戻る)

いずれにしても地球が想像以上に複雑で有機的なつながりのあるシステムあることを理解して頂ければと思う。
  
ここまで地球大気の歴史の中で地球温暖化の議論を理解するために必要と思われる要素を出来るだけ簡潔に示してきた。地球環境は極めてダイナミックに変化して来た歴史があること、その変化のメカニズムは非常に複雑で有機的につながっていること、そしてまだまだ分からないことが多く今後面白い発見が沢山あるであろうことを改めて認識して頂ければと思う。

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