はじめに
インボイス制度は2023年10月1日より施行開始となる新しい消費税に関する納税制度です。
国税庁の説明ページはこちら。
国内企業各社はこのインボイス制度導入に向けて取り組んでいる最中ですが、制度の対応を行おうとするとこの制度がとても複雑な問題を引き起こしてしまうため、どう対応するべきなのか考えあぐねている経営者も少なくないはずです。
「こんな下らない事のために一体いくらシステム投資しなければならないのか・・・?」と嘆く経営者が日本中に大量にいるものの相手が大きすぎて怒りをぶつける先が無い、あるいは思考停止状態になっているのではないでしょうか。
これは制度設計者(国)側は企業側の問題について十分に把握する前に制度の根幹を複雑に設定してしまった事も一つの原因であり、企業側も制度設計者側に事前に十分なフィードバックを行う十分な機会もないまま「お上の決定」だからと複雑な設定を受け入れざるを得なかった経緯があったと思います。
真実がどうであったかは置いておいて、現実のところこのインボイス制度に対応するために企業は膨大な非生産的なコストを支払って対応しようとしているのですが、その社会経済的非効率性について記述された議論はあまり無いと思われるため、ここでは「インボイス制度のここがダメ」と題してこの議論を深めて行きます。
結論を先取りしますと、この制度を導入することによる増税による国の追加的な税収と負担および民間による追加的な負担のバランスを考えると、制度の導入は国全体としてはマイナスが大きいため導入すべきではないということだと考えています。
インボイス制度は消費税の計算方法や表示の仕方について極めて硬直的に箸の上げ下ろしが規定されているため、これに真面目に対応するためのコストが非常に大きくなります。(その上、細かい規定が後出しじゃんけんで出てきたりするため、「そんな業務要件聞いてない、今から対応して10月に間に合う訳ない」というようなことが起きていることでしょう。
本稿ではこうした問題について記述しつつ、企業として可能な対応があるとしたら何かについて考察しました。
ディスクレーマー
当方は税理士ではございません。税務の詳細については税理士にご相談下さい。以下の議論はあくまでも、公開情報のサーベイから限定的、論理的に推定した結果であり、包括的な真実についての記述ではありません。また記述中に事実誤認等の誤りが存在する可能性もありますので、お気づきの点があればご指摘下さい。
インボイス制度導入の背景
インボイス制度の導入の背景は令和元年10月の消費税増税に伴い消費税の税率が多様化した(非・不課税、8%、10%)ことに端を発すると言われています。
軽減税率をはじめ個別の取引ごとに税率が異なるため、消費税申告の際の計算間違えが起こりやすい状況が生まれ、この問題への対応としての制度設計という背景です。
一方でかねてから問題視されていた「益税」の解消対策という背景もあったようです。
益税とは、事業者に支払った消費税の一部が、納税されずに事業者の利益となってしまうことを指します。
一旦支払われた消費税が行政に納められず、特定の企業(あるいは個人)の利益となってしまうことから、税の公平性という原則に照らして適切ではない、という考え方ですが、一方で一定の基準を満たす小規模事業者には以前から認められている制度でもあり、インボイス後もこうした免税措置は自体は残されます。
(但し、免税事業者であることがこれまでと比べて不利である制度設計であることは間違いありません。)
インボイス制度導入の目的が良くわからない ⇒ 実は増税目的?
上述の通り、インボイス制度は異なる消費税率の取引を一つの請求書や領収書の発行で対応する場合に、その計算方法を定めることで計算間違えが起きないようする目的と、益税を徴収しやするくする目的の2種類が想定されます。
計算間違いを防ぐ?
「計算方法を定めることで計算間違えが起きないようする」という点においては、確かに計算についての認識の相違による間違いなどは減らせるようになる可能性がありますが、一つの領収書、(適格)請求書で税率ごとに一回しか消費税計算を行わないという要件にしたことが原因で逆に多くの複雑な問題を引き起こして分かりにくくなっています。
間違えないようにするが目的であれば、まずは制度を簡単にするべきです。
簡単にした上で、計算方法を定めるのであれば有意義なのですが敢えて複雑な制度を設計した上で計算方法まで定めてがんじがらめにしてしまうのは大いに問題があるのではないでしょうか。
計算間違いが問題であれば、根本的な原因である制度の複雑さを簡素化すべきところを、複雑なまま複雑な計算方法を導入する点で間違っているため、多分計算間違いを防ぐという建前は必ずしも本当の狙いではないのではないかと思われます。
むしろ本当に計算間違えが起きないようにと考えているのではなく、今回の複雑な計算方法を何としても社会に実装させたいという強い意志のようなものを私は感じますが真意は不明です。
益税を徴収する?
また、上述の通り益税の徴収をしやすくするという目的も指摘されています。
益税とは、消費者が支払った消費税が国や地方自治体に納められず、事業者の手元に合法的に残ることです。
中小事業者に対する特例として、売上高5000万円以下の事業者の納税事務負担を軽くする「簡易課税制度」や、課税売上高が1000万円以下の事業者の消費税を免除する「事業者免税点制度」で、益税が発生します。
現在の益税の全体額は2000年前後の消費税額5%を前提とすると5000億円程度という試算があります。
足元は8~10%なので、8000億円~1兆円程度という規模感と推測されます。
しかし、そのインボイス制度によって想定している益税解消の内容を見ますと、
「インボイス制度の導入によりこれまでは益税となっていたが、得意先等が仕入税額控除出来ないと不都合が起き最悪の場合は取引を停止されてしまうリスクを免税事業者が感じる場合には、非適格事業者(免税事業者)から適格事業者に変更することで取引関係を維持する行動を促すことが出来、結果的に免税事業者の数を減らして益税の発生を抑制することが出来る(かも知れない)」
という、パッシブな効果を想定しているようです。
この効果がどの程度あるのかは事後の検証によるしかないのですが、対象となる小企業の経営者の立場から考えるとあまり対応したくない、つまり益税縮小効果は限定的なのではないでしょうか。
仮に社会が効率的である前提を置いて、仕入れる会社の視点から次のケースを比較してみましょう。
- 適格事業者のA社から110円(税込)で仕入れて、仕入税額控除をして10円分支払消費税を減らす(ネットのキャッシュアウトは100円)
- 非適格事業者のB社から100円で仕入れて仕入れ税額控除をしない(ネットのキャッシュアウトは100円)
これを考えると経済効果は同じですが、(経理部ではない)購買担当者がうっかりしていれば、110円を支払うA社ではなく、100円の支払いで済むB社を採用する可能性の方が高い可能性すらあります。
こうして考えると(経過措置もあることですし)急いで適格事業者になるメリットは少なく、
免税を維持する経営者が多いように考えられます。
(実際にはB社自体が仕入税額控除が出来ない分売値を105円などもう少し高くしても良いですが、簡単のため上記の設定としてます。)
ここで立法と調査 2019. 2 No. 409(参議院常任委員会調査室・特別調査室)の資料を見てみましょう。
ここには次のような記述が見られます。
「**また、インボイス導入による財源確保は、益税の是正と表裏一体の関係にある。
つまり、事業者免税点制度の適用を受ける多くの個人事業者0が課税事業者へ転換しなければ財源の捻出は望めない。
インボイスにより取引から排除されることに懸念を持つ免税事業者の一定数は、課税事業者への転換が見込まれるものの、その予測は難しい。
このような不確定要素の多いインボイス導入により、予定どおり財源が賄われるのか、制度実施後において検証が必要となろう。 **」
これを見ると、一応公式見解としてはインボイス制度による益税の是正を目指している姿勢は確認できますが
益税の解消効果についてはやや力不足であることが認められています。
改めてそうだとすると、インボイス制度は何のために、この膨大な無駄な時間やコストを企業に強いる制度なのでしょうか?
第3の理由:ステルス増税
実はもう一つ考えられる点があるとすれば、上述の計算方式を実装させる、即ち「一つの適格請求書で税率ごとに一回しか消費税計算を行わないという計算要件」がステルス増税になっているという点が挙げられます。
この点について次の章で説明します。
インボイス制度による増税効果
インボイス制度は小規模事業者の益税を狙い撃ちにした制度と批判されることもありますが、上述のとおりその効果はどうも合理的に定かではありません。
それよりもはるかに確実に毎年数千億円(推定)の増税が出来るロジックがインストールされています。多分、益税の微々たる解消よりも大幅な税収増になることでしょう。
しかし、増税というと国民の受けが非常に悪いのでそうは言わずに「計算間違いが起きないように計算方式を定めました」ということで、論点にならないようにしているのではないかと思わず想像してしまいます。
計算方法の選択肢
インボイス制度において適格請求書における消費税の計算方法は2種類認められています。
しかし、自然に考えると浮かんでくる第3の方法については認められていません。
結果的に企業は第1の方法と第2の方法を比較して第1の方法を採用していると思われます。
しかし、第3の方法が社会コストが最も低く(計算方法が簡単でシステム負荷投資も小さい)、本来の文脈にも沿うものであると考えられます。
それら選択肢について、例えば具体的には「適格請求書等保存方式(インボイス制度)の手引き2022」に記載されていますが、以下ではこれを改めて説明します。
第1の方法:本則第1案(税抜金額を基に消費税額を計算する場合)
まず本則第1案といった呼び名な本稿のみの分類ですのでご注意下さい。消費税の計算の原則は
「適格請求書に記載すべき「消費税額等」については、取引に係る税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額に対して、10%又は 8%(税込の場合は 10/110 又は 8/108)を乗じて得た金額に対して端数処理を行い「消費税額等」を算出します。
したがって、適格請求書の記載事項である「税率ごとに区分した消費税額等」に1円未満の端数が生じる場合には、一の適格請求書につき、税率ごとに1回の端数処理を行います。」
とされています。
このうち本則第1案は「税抜金額を基に消費税額を計算する場合」で、認められる計算方法です(下図参照)。トマト、ピーマン、花、といったように商品別に数量×税抜単価で「税抜金額」を計算し、8%、10%と税率別に税抜金額を決定した後で、消費税率を乗じて消費税額を計算しています。この際、小数点以下は切り捨てても良い事になっています。この本則第1案が様々な箇所で参照される基本形なので財務省としてこちらの案を推しているということかと推察します。
第2の方法:本則第2案(税込金額を基に消費税額を計算する場合)
次に「税込金額を基に消費税額を計算する場合」で、こちらも認められる計算方法です。各々の商品別に数量×税抜単価で「税抜金額」を計算するとこまでは本則第1案と同じです。次に各々の商品別に消費税額を計算した上で商品別に税込金額を決めています。しかし、ここでの消費税額の計算は税込の販売価格を決定するための便宜的な計算過程、即ち値決めのための参考であり、この端数処理に関しては事業者の任意です(適格請求書の記載事項としての消費税額等の端数処理ではありません。)。
適格請求書記載事項としての消費税額等の計算は、商品別の「税込金額」を税率別に集計した値を計算した後に、割り戻し計算によって消費税額を決定する必要があります。
第3の方法:不許可案1(比較的思いつきやすいシンプルな案)
第3の方法は「適格請求書等保存方式(インボイス制度)の手引き2022」にも示されている不許可となる事例で、各々の商品別に数量×税抜単価で「税抜金額」を計算するとこまでは本則第1案と同じで、その後各々の商品別に消費税額を計算するとこまでは本則第2案と同じです。しかし、ここでせっかく求めた消費税額があるのだから、この消費税額を税率別に合算して全体の消費税額を計算してもいいじゃないか、という案です。しかしこの合算は不許可です。何故不許可なのかの本質的理由は定かではありませんが、少なくとも本則第1案、本則第2案よりは国の税収は減少します(後に詳述)。
第4の方法:不許可案2(最もシンプルで合理的な案)
第4の案は、消費税の計算としてはデータハンドル上は最もシンプルな案ですが、インボイス制度では認められていません。
各々の商品別に税抜単価に対して対応する消費税「消費税単価」を計算します。消費税の端数処理はここで行います。
次に商品別に数量を掛けることで、商品別の税込金額と消費税額が決まります。
最後に(税率別が必要なのであれば)税率別に税込金額、消費税額を計算します。
この方法が優れている点は、個別の商品の一つ一つ消費税額と全体の合計が必ず一致することです。
この結果として、返品が起きた時にも対応する消費税が全体と完全に整合性が取れて計算が一致し、端数処理で矛盾する気持ち悪さが無くなります。
また、更に優れている点は、対消費者目線で考える際に商品を何個か同時に購入する際に小数点以下の繰り上げと端数処理の関係で有利不利が発生するような分かりにくい仕組みが解消します。この分かりにくい説明のために多くの企業が日々膨大な説明コストを支払っているのです。
そして実は最も地味で重要なことは、企業がデータベースを構築する際に、消費税を伝票(取引の発生する単位)に紐づけるのではなく取引された個別の商品の単位に紐づけることが出来るため圧倒的に実装がシンプルになり、社会コストが大幅に減少するのではないかと思っています(後述)。
ちなみに、不許可な本案ですがこれを実質的に許可にできる形式に変換することは出来るのではないかと思います。即ち、販売する1商品ごとに1枚の領収書を発行する、という体裁を実現することです。通常の請求書は(簡易)適格請求書ではなく単に参考帳票として顧客に提出して、本当の(簡易)適格請求書は電子ファイル等別の形式で明細情報と伴に提出すれば良いのです。(詳細は税理士に確認して下さい)
方法別の税収の試算
前提知識
具体的な税収計算の前に、現在の消費税の税収に関連して知っておくべき基礎知識をおさらいします。
GDPの規模
内閣府の国民経済計算(GDP統計)によると、2021年度の名目GDPは550.5兆円とのことです。
国の収入と税の規模
国税庁によれば、令和3(2021)年度の国の収入(一般会計歳入(当初予算))は年間106兆6,097億円です。そのうち57兆4,480億円が租税及び印紙収入です。
消費税の規模
上記の租税及び印紙税の約57兆円のうち、消費税は約20兆円(35%程度)です。上記のGDPの内、家計の最終消費支出(家賃を除く分)は240兆円規模なので、
20兆円÷240兆円 = 8.3%程度なので消費税率とおよそのオーダーは整合性があると見られます。
いずれにせよ、消費税は税収の35%程度と相当なインパクトのある税収源になっています。
前提
以下では上記の4案について、税収の推定を行うために簡単なシミュレーションを行ってみます。
上記4案は計算方法が若干異なることは分かるものの、直感的にどの手法がどれだけ税収に影響するか言い当てるのは難しいと思います。
そこで本稿では、税収のオーダーを推定し手法別の税収の大小関係を与えることを目標にします。
モデル構築の考え方
上記の4つの計算方法の差異を考える際に、基本的にインパクトが出やすいのは小売業の領収書と考えられます。商品アイテム数が多く、一つの領収書に記載される内容も点数が多い割に単価自体は小さいため端数処理を行う方法によって計算結果が変わる割合が大きく、全国で日々膨大な量の取引が行われているため総量として影響が大きいと考えれます。一方で、大きな企業同士の取引であれば、税前商品価格が100万円など端数処理を行う必要が無いような単位での取引が多いため、計算手法による差異も発生しにくいと考えられます。
このようなことからまずは小売業の年間の取引高についての統計を確認します。
経済産業省の「2021年 ⼩売業販売を振り返る」という資料を参照すると、小売業全体の販売額合計はおよそ150兆円と試算されています。この数値は税込と考えられるため、仮に10%の税率を前提とすると税前ベースでは約136兆円程度と推察されます。
また、「統計・データで見るスーパーマーケット」を見るとスーパーマーケットの平均客単価は平日1,860.6円、土日祝2,133.2円となっています。押しなべて見ると客単価の平均値、即ち一つの領収書に記載される支払合計額(税込)の平均値は、オーダーとしてはおよそ税込2000円程度と考えられます。仮に消費税が10%均一であれば税前で1818円程度という試算になります。
ここで一つの領収書に記載される平均的な姿を想定してみます。
- 購入される商品の単価(税前): 228円
- 一つの商品を重複して購入する際の重複個数: 2個
- 一回の買い物で購入する異なる商品アイテムの種類数:4種類
- 簡単のために消費税率は全て10%とする
このような前提が仮に正しいとすると、税前の合計値は(228×2×4=)1,824円となり、これに消費税率10%を加えると税込支払額は2,006円となります。
ここまでがモデルの基本的なパラメータで、pythonのスクリプトではParamsとして以下のように定義しています。
Params = {
"Retail_Gross_Sales": 136_000_000_000_000, # 小売業全体の販売額合計(税前)ベース
"averaged_unit_price": 228, # 購入される商品の単価(税前): 228円
"averaged_purchase_unit": 2, # 一つの商品を重複して購入する際の重複個数
"averaged_items": 4, # 一回の買い物で購入する異なる商品アイテムの種類数
"TAX":0.1, # 消費税率は全て10%
"Sampling":1_000_000 # 同じ領収書のサンプルが100万回ずつ出現する仮定
}
Paramsの"Sample"について少し解説を加えます。上記Paramsでは「平均的な」領収書(適格請求書)の姿を想定しました。しかし、同じ領収書ばかりだと端数の計算方法の違いがどう影響するのか知ることが出来ません。このため、シミュレーションでは商品単価を平均値の周りで揺らぐように乱数を振って商品単価を決定します。
具体的には税前の商品単価(unit_price_bt)という変数を以下の式で決定します。
unit_price_bt = int(random.gauss(mu = ave_unit_price, sigma = ave_unit_price/2.5))
こうすることで、領収書(適格請求書)の計算方法の違いをシミュレーションすることが可能です。具体的には以下の図のように、乱数によって大量の様々な領収書を生成しつつ、全体の分布としては税込の支払合計額が凡そ2000円が最頻値かつ平均値となる釣り鐘型の分布となるようにする出来ます。
しかし、ひたすら乱数で異なる領収書を発生させると言っても140兆円分の領収書を生成するとなると計算時間ばかり浪費してしまいます。100万件ずつくらいは同じ領収書があったと仮定しても全体の傾向は変わらないと考え、ParamsのSamplingを100万件とすることで同じ領収書が100万件ずつあることを表現しています。
シミュレーションのスクリプト
import random
Params = {
"Retail_Gross_Sales": 136_000_000_000_000,
"TAX":0.1,
"averaged_unit_price": 228,
"averaged_purchase_unit": 2,
"averaged_items": 4,
"Sampling":1_000_000
}
def get_tax_comparison(item = Params["averaged_items"], \
unit = Params["averaged_purchase_unit"],\
tax = Params["TAX"], \
ave_unit_price = Params["averaged_unit_price"]):
# 消費税の計算手法別の比較
price_bt = 0 # unit price before tax
Total_bt = 0
Total_at = 0
each_tax = 0
Total_tax = 0
Total_each_item_tax = 0
for i in range(item):
unit_price_bt = int(random.gauss(mu = ave_unit_price, \
sigma = ave_unit_price/2.5))
each_item_tax = int(unit_price_bt*tax) * unit
price_bt = unit_price_bt * unit
Total_bt = Total_bt + price_bt
each_tax = int(price_bt * tax)
price_at = price_bt + each_tax # unit price after tax
Total_at = Total_at + price_at
Total_tax = Total_tax + each_tax
Total_each_item_tax = Total_each_item_tax + each_item_tax
Total_tax1 = int(Total_bt*tax)
Total_with_tax1 = Total_bt + Total_tax1
Total_with_tax2 = Total_at
Total_tax2 = int(Total_with_tax2 * (tax/(1+tax)))
Total_tax3 = Total_tax
Total_with_tax3 = Total_bt + Total_tax3
Total_tax4 = Total_each_item_tax
Total_with_tax4 = Total_bt + Total_tax4
return [Total_with_tax1, Total_tax1 , Total_with_tax2, Total_tax2, \
Total_with_tax3, Total_tax3 , Total_with_tax4, Total_tax4]
def total_calc(N): #N回の買い物での消費税計算比較
m = []
for n in range(N):
m.append(get_tax_comparison())
m = list(zip(*m)) # リストの転置
import pandas as pd
df = pd.DataFrame()
df['Regulation1'] = m[0]
df['Tax1'] = m[1]
df['Regulation2'] = m[2]
df['Tax2'] = m[3]
df['Regulation3'] = m[4]
df['Tax3'] = m[5]
df['Regulation4'] = m[6]
df['Tax4'] = m[7]
print("■本則第1案--------------------------------(10億円)")
print("\t税込支払額合計:", df['Regulation1'].sum()/1000, " 消費税額合計:",\
df['Tax1'].sum()/1000)
print("\n■本則第2案------------------------------(10億円)")
print("\t税込支払額合計:", df['Regulation2'].sum()/1000, " 消費税額合計:",\
df['Tax2'].sum()/1000)
print("\n■不許可案1------------------------------(10億円)")
print("\t税込支払額合計:", df['Regulation3'].sum()/1000, " 消費税額合計:",\
df['Tax3'].sum()/1000)
print("\n■不許可案2------------------------------(10億円)")
print("\t税込支払額合計:", df['Regulation4'].sum()/1000, " 消費税額合計:",\
df['Tax4'].sum()/1000)
import matplotlib.pyplot as plt
df['Regulation1'].hist(bins=40, color = "blue", grid =True)
plt.xlabel('JPY')
plt.title('Customer spending (tax included)')
plt.show()
df['diff'] = df['Tax1'] - df['Tax3']
return df['diff'].sum()
def get_impact():
W=Params["Sampling"]
N0 = int( Params["Retail_Gross_Sales"]/(Params["averaged_unit_price"]*\
Params["averaged_items"]*Params["averaged_purchase_unit"])/W)
print("小売業の売上げ", int(Params["Retail_Gross_Sales"]/\
1_000_000_000_000), "兆円(税前概算)")
print("小売業平均購買単価", Params["averaged_unit_price"]* \
Params["averaged_items"]*Params["averaged_purchase_unit"],"円(税前概算)")
print("平均購買件数",N0, "百万回")
total= total_calc(N=N0)*W
#print("本則第1案と不許可案1との差分",total/W/1000, "十億円")
#return total
get_impact()
この実行結果は以下の通りです。
小売業の売上げ 136 兆円(税前概算)
小売業平均購買単価 1824 円(税前概算)
平均購買件数 74561 百万回
■本則第1案--------------------------------(10億円)
税込支払額合計: 149235.409 消費税額合計: 13539.745
■本則第2案------------------------------(10億円)
税込支払額合計: 149147.352 消費税額合計: 13524.81
■不許可案1------------------------------(10億円)
税込支払額合計: 149147.352 消費税額合計: 13451.688
■不許可案2------------------------------(10億円)
税込支払額合計: 149000.004 消費税額合計: 13304.34
本則第1案と不許可案1との差分 88.057 十億円
計算結果の評価
結果として、得られたのが以下の表です。
税込の支払い合計額はどれも約149兆円で小売業全体の販売合計額150兆円とオーダーとしては一致しています。
次に消費税額合計を見ると、どれも13兆円半ばです。税前で136兆円の小売業の売上げに10%の消費税を掛けて13兆円半ばというのもオーダーとしては妥当です。ちなみに国の消費税の収入が20兆円なので小売業部分だけで13兆円というのも妥当でしょう。
計算手法 | 税込支払額合計(兆円) | 消費税額合計(10億円) | 本則第1案との差分(億円) |
---|---|---|---|
本則第1案 | 149.2 | 13,539.7 | - |
本則第2案 | 149.1 | 13,524.8 | -149 |
不許可第1案 | 149.1 | 13,451.7 | -880 |
不許可第2案 | 149.0 | 13,304.3 | -2,354 |
こうしてみると、枠組みとしては妥当な見積が得られたと考えて問題無さそうです。
次に見るべきは、計算手法の違いでどれだけの差が発生しているかです。
財務省イチ推しの本則第1案との差分でみると、本則第2案は約150億円ほど少なくなっています。
不許可第1案は第1案よりも880億円の減収で、不許可第2案は2,354円も少なくなっています。
結果として、計算手法の違いにより税収は相当異なることが分かりました。特に不許可の計算手法は税収が大幅に減ってしまうことも確認出来ました。
結果の現実的な解釈 ~高々200億円の増税効果~
以上は計算上の話ですが現実の社会に目を向けてみるとどうでしょう。
インボイス導入前の2022年時点で、大手小売業の領収書を見るとすでに本則第1案の計算方法を採用している企業が多いのが実態です(但し、(簡易)適格請求書としての要件を満たす書式にはなっていません)。
つまり、インボイスを導入することによって追加的に増税効果が発揮される金額は上記の計算ほど大きくはありません。
仮に不許可第1案を採用していた企業が10%存在したとしても、これが本則第1案に変わることの影響はたったの88億円となります。
また、2022年時点で不許可第2案を採用している企業は殆ど無いでしょう。
つまり、どんなに増税効果を大きく見積もっても高々200億円増税出来るかどうか、と言ったところが現実的な解釈ではないでしょうか。
しかし、こういう重箱の隅までつついて少しでも多く徴税しようという強い意志は見て取れるのではないでしょうか。
インボイス制度への対応コスト
改めて、何のためのインボイス制度?
上記の結果を受けて「ステルス増税と言っても大したことないじゃないか、ああ良かった」と言いたいところですがちょっと待ってください。
増税効果も無く、計算方法を整備することによるコスト効率化効果も無いとしたら、一体何のための制度なのでしょうか?
その無益な制度のために企業がどれほど対応に苦慮し、今後も対応コストを支払い続けなければならないのでしょうか?
ということで、ここでは企業サイドの苦労について深堀って行きましょう。
インボイス制度対応にコストが掛かっている事例紹介
総額表示への対応の混乱
財務省のサイトを見ると以下のように記述されています。
平成16年4月から、消費者に対する「値札」や「広告」などにおいて価格を表示する場合には、消費税相当額を含んだ支払総額の表示を義務付ける「総額表示方式」が実施されています。それまで主流であった「税抜価格表示」では、レジで請求されるまで最終的にいくら支払えばいいのか分かりにくく、また、同一の商品やサービスでありながら「税抜価格表示」のお店と「税込価格表示」のお店が混在しているため価格の比較がしづらいといった状況が生じていました。
「総額表示の義務付け」は、このような状況を解消するために、消費者が値札等を見れば「消費税相当額を含む支払総額」が一目で分かるようにするためのものです。
そしてこの総額表示への対応へのQAが公表されており、以下のような事例が紹介されています。
多くの店舗ではデフォルトで税抜価格を基に消費税を計算するレジシステムを導入しているかも知れないが「それだと消費者は税込172円の商品を2個買えば344円と考えるが、実際の請求額は345円」となってしまうため問題が起きる、よって「税込価格」で計算して344円となるレジシステムに切り替える方法がある、と言っています。
お気づきでしょうか。この「税込価格」で消費税を計算する方法は、税込の単価を計算した上で数量を掛けて支払合計額を得るのですから、上記の消費税の計算方法の分類で言えば、推奨されているのは最もシンプルで合理的だが不許可の第4の方法です。
そしてインボイス制度で要求されているのは「税抜価格」を元に合計値を求めて最後に消費税額の端数処理を計算する方法ですので、制度の基本方針が変わっているのですが、この計算方法の変更に対応するためのシステム投資、レジの刷新、お客様への説明コスト等も馬鹿にならないでしょう。
そもそも昔認めていたのなら、最もシンプルで合理的な方法をインボイス制度後も認めれば良いだけなのではないでしょうか。
仕入れ税額控除 ~取引先をどこまでモニタリングする必要があるのか・・?~
消費者の見えないところではもっと多くの問題が発生しています。
まず仕入れ税額控除を受けるためには、仕入れ先が適格事業者である必要がありますが、この相手先が適格事業になったりやめたりする可能性がります。通常の請求書のやり取りは月次サイクルで回していたとしても月の途中から仕入れ先のステータスが変わった場合、その日付から仕入れ税額控除が受けられる/受けられないが変わります。
こうしたミスが起きないようにするためには、経理部で全員制度を正しく理解した上で相手方のステータスが正しいのか目を皿のようにして確認しなければなりません。
しかし実は幸い、税務当局は全ての登録された適格事業者について日次でアップデートしてWebサイトで公表しています。これを毎日自動的にゲットして自動的に帳票と照らし合わせて不整合があったら速攻担当者に通報するシステムを開発すれば問題解決なので、企業は頑張ってこのサイトに毎日アクセスするプログラムを開発して下さい、ということになっています。
このシステム開発・運用も相当なコストですが、こういう対応を全企業に暗に義務付けているのでしょうか。
これが自動化出来ない場合には、企業は手オペによる事務ミスや作業遅れから脱税なりの嫌疑をかけられるリスクをしょい込むことになるのでしょうか。
間違っていたら誰の責任になるのでしょうか。
適格返還請求書 ~たかが返品対応 されど返品対応~
例えば一旦売上げた商品・サービスについてキャンセル(返品)が発生した場合については、適格返還請求書を発行しなければなりません。適格返還請求書には記載すべき事項は以下のように決まっています。
- 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
- 対価の返還等を行う年月日
- 対価の返還等の基となった取引を行った年月日(課税資産譲渡日)
- 対価の返還等の取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
- 税率ごとに区分して合計した対価の返還等の金額(税抜き又は税込み)
- 対価の返還等の金額に係る消費税額等又は適用税率
これだけでも相当面倒な問題を生じさせます。
特に、元の課税資産の譲渡を行った年月日は厄介です。これは取り扱う商品サービスの品目によって、どの日付を以て課税資産の譲渡日と認識するかは品目によって異なる可能性があります。これについて改めて、全品目洗い出して課税資産の譲渡日を明確に定義して、後の返還に対応する際の日付を取引明細に相当するデータに保持しておかなければ日付が自動的には特定出来なくなります。ということは全て手オペで対応するということになりますが、対応する人はたった数百円や数万円の返還のために過去の帳票を必死になって探すという恐ろしいオペレーションが発生します。
せっかく見つけた過去の帳票もうっかりミスでどれだか分からなくなると大変なので、元の取引に関する根拠を明確に保持するために、過去に発行した適格請求書なり明細なりの明細番号の記載も無いと2度と根拠に遡れ無くなる可能性もあります。
更にイレギュラーと言えばキャンセルをキャンセルする場合にはどういう問題が起きるのか?これは経理上、システム上、現場のオペレーション上など、実務では考えなければならないことが爆発的に増えていきます。
また、自社が適格/非適格の切り替えを行う場合、先月までは非適格の請求書だったが今月からは適格とかその逆のパターンになった場合、適格返還請求書は過去のステータスに遡って発行しなおさなければならないが、どうやって自動的に対応出来るのか、あるいはスムーズに移行出来るのか出来ないのか?
また、前払いで徴求した金額があった場合、一部の金額を後から返還するようなイレギュラーケースでは、それが預り金なのか売上げ認識されている金額なのかによって、消費税として算定されるべき金額が変わってくる可能性があります。さらに、それが自社の決算期を超えてしまったケースで、前期に遡って修正をする場合にはどういう考察が必要になるのか?
例外規定の後付けによる更なる複雑化への対応①
売上返還に関して言えば、例えば、2022年12月の閣議決定で、返品や値引きによる売上の返還を行った際、その税込価額が1万円未満であれば、適格返還請求書の交付義務を免除すると発表しました。
こういう中途半端な後付けの規定が起きるとどうなるでしょう?
①1万円未満の返還か否かを毎回判断する自動ロジックを開発する必要があるのではないか?開発費用を考えるとそこは手オペの方がいいのではないか?
②1万円未満の返還があったして、「適格返還請求書を発行しなくていい」ということだから発行しませんでは相手方は納得してくれるのか?納得してくれない場合にはやはり発行する例外処理規定を設ける必要があるのではないか?ということは、相手方の意向を確認して対応するというコミュニケーションコストが新たに発生することになるが、1万円未満って税金にして100円未満の話なので無視していい気もするが、件数が多かったらそれなりの金額になるのかも知れない。発行しなかったら多分相手方から問い合わせも来るだろうしどちらにせよ対応しないといけないということになるのかも知れない。
③更に、このタイミングで新しい要件を出されても、システム開発はもう要件固めて走り出しているから、新しい要件を今更追加されても対応できるのは2023年10月のシステムリリースが終わった後でないともうスケジュール的に無理。
④それくらいならこの改正は無視して全部適格返還請求書を出してしまった方が楽ではないか?だとしたら本当に無駄に複雑化しただけの無駄な改正だ。
⑤これだけのことを決定するにしても、企業として対応を決めなければならないとしたら、企業の多くの部署の制度対応責任者が相当な時間をかけて精査して、議論して対応しない、対応するならどうやって対応するのかを決めなければならいため、相当な時間や人件費を浪費する。
例外規定の後付けによる更なる複雑化への対応②
もっと恐ろしい例外規定があります。
新設の企業はその第1期が終わる直前までに、当局に申請すれば、新設日に遡って適格事業者とみなすことが出来るという規定があります。
つまり新設法人が非適格事業者だったとしても、その第1期が終わる直前に「やっぱり適格事業者になりまっっっす。つきましては過去の帳票は適格事業者だったということで直しておいて下さい」と言われてしまうと、そこから帳票を受け取っていた企業は過去12カ月遡って、この企業とやり取りした全帳票を適格請求書とみなし直して経理処理を修正しなければなりません。自社の決算期を超えていたら、当然過年度修正ということなりますので、更に面倒なことになります。
もちろん、仕入れ税額控除したいならやるしかないのですが、それをしないなら企業の勝手ですということですが税務当局はコストはかからないから勝手なことを言いますが、対応する企業としては頭がおかしくなりそうです。
例えば、マイナーな企業が12カ月遡って修正するというくらいなら対応しないという発想もありますが、それがいくらからはマイナーと判断するのか、誰が判断するのか、過去半年で1件なら無視だが10件あったら無視できないかも知れないから、結局、事案が発生したタイミングでは通期の決算への影響は分からないから、仕方ないから全件対応することにするのか?
こうした対応の方針を企業として決定していくために、一体どれだけの時間と人件費を費やしなければならないのでしょうか。
どれだけの対応コストが掛かるのか? ~ 1兆円は下らないのでは? ~
上記に述べてきた部分は、ほんの氷山の一角にもならない程度の話題です。
こうした問題への対応を大企業が行おうと思えば、帳票レイアウトの変更からデータベースの見直し、計算方法やデータベース同士の連携、業務部門同士の連携の仕方を変えなければ対応出来ないような事案が山積します。
この対応を検討するために、現場の現業を抱えているスタッフだけでは対応不可能なので、外部のコンサルタントを雇う必要が発生します。
例えば、SAPやオラクルに長けているコンサルタントを雇うとなれば相当なコストを要しますし、税務・会計についても詳しいコンサルタントが必要になるでしょう。すると毎月数千万円のコストが外部流出する上、内部のスタッフも当然膨大な時間を投入することになりますので、毎月億円単位のコストが企業に発生していてもおかしくありません。
そんな対応を大手企業社が仮に行ったとしたら、毎月数百億円、年間数千億円の対応コストが発生しています。大企業300社だけでです。国内上場企業は4000社弱有るわけですから、更にものすごい金額になりますし、国内には420万社の中小企業があると言われてます。
更に政府としてもインボイス制度を知らしめるために相当な時間もコストもかけているはずです。
こうして考えるとそれらのコストを合計したら1兆円は下らないのではないでしょうか。
更に、この1兆円は初期対応だけのコストの話です。これに加えて毎年この制度に対応し続けるためのコストが追加されます。
インボイス制度の日本にとっての意義 ~国際競争力を削ぐ有意義なツール~
さて、この膨大なコストに対する税収増はいくらだったでしょうか?
前の章で見た通り高々200億円程度と見積もられます。
税収を200億円上げるだけのために、民間部門に1兆円規模のコストを強いるのは理に適う政策なのでしょうか?
町の道路のメンテナンスのようにアスファルトであれば劣化するので定期的に打ち直さなければ道路が穴ぼこだらけになって危険なので、まだ有意義かも知れません。しかし、この対応コストは企業の生産性向上にとっては著しい損失でしかなく、企業部門の成長を妨げる効果はボディブローのように毎年蓄積されていくでしょう。
日本の労働生産性が諸外国に対して低いのはよく知られていますが、その理由が何なのかは誰も明快な答えも持っていないと言われています。
しかし、今回のインボイス制度のように国家の国益に適うか分からない複雑な制度設計とそれに生真面目に対応して膨大な金額をどぶに捨てている企業の組み合わせは、毎年確実に日本の民間部門の力を削いでいくのに十分な影響力があります。
今回のインボイス制度はもう走り出してしまったので仕方ないかも知れません。
しかし、制度設計を行う際に、どうにかして、その制度を導入する民間コストと公共部門の便益を比較して本当に国益に適うのか、よく考えるプロセスを導入して頂きたいものです。
適格事業者になるか悩んでいる経営者へ
日本では年商1000万円前後の企業は多分相当な数あります。
このため、この辺で悩んでいる経営者の数も相当な人数がいると考えられます。
既に課税事業者の企業の場合
既に課税事業者である企業の場合、免税事業者にはなれないので、非適格であり続けるメリットはありませんが、デメリットは極めて大きい制度です。
例えば、既に課税事業者であり非適格事業者の場合、売上げが2200万円ある場合には、これまでどおり200万円が支払うべき消費税額です(簡単のため簡易課税制度は置いておきます)。
しかし、この非適格事業者はインボイスを発行出来ないので、2200万円分仕入れた会社はこの分の仕入税額控除が出来ません。このため、200万円分余計に消費税を支払う羽目になります。
結果として、国税は2000万円(税抜)の取引に対して400万円税金を徴収するという2重課税が発生してしまうという制度の欠陥がありますが、ここまあまり当局としては解決すべき課題として認識されているようには思われませんので当面解決しないと推測されます。
とにかく、既に課税事業者であれば適格事業者になる他ありません。
しかし仮に売上げが1000万円を下回るような状況になった場合には、免税事業者になるために非適格事業者を選択しなおすことも選択肢です。
その場合には、自社の決算期を境に年に一回だけ、非適格事業者を選択するチャンスがありますので、忘れずに申請しましょう。
現在、免税事業者の場合
結論は様子見をしましょう。
適格事業者はなるのは簡単です。しかし、インボイス制度の手引き(p5)にあるように辞めるのは大変です。
年に一回したチャンスは無いのでタイミングによっては辞めたいと思ってから辞めるまでに1年程かかるかも知れません。
周囲の雰囲気に負けて適格事業者になってしまった人たちは、これまでの利益を維持するためには値上げをせざるを得ません。
制度対応のために追加的な相当なコストも発生します。
しかし、制度対応しなければ値上げしなくてもいいのです。追加コストもありません。
なんなら申し訳程度の値下げしてあげれば、雰囲気に負けて適格事業者になってしまった競合他社と比較して、完全に有利な立ち位置を獲得することが出来ます。
もし取引先が大手の適格事業者であった場合、確かに自社から適格請求書を発行出来ないのは申し訳ない気持ちになるかも知れません。
しかし、そこそこの大手であればその程度のコストの差はピーナッツ程度の差でしかないはずで、かつ、購買決定者と経理部門は別々なので消費税に差に目くじら立てない可能性も大きいはずです。
また、ご存じの通り、インボイス制度には経過措置もあります。
制度が導入されてから情勢を見極めて本当に必要であれば適格事業者になるのでも十分間に合います。
無論、愛国者としてお国のために税金を納めることは大切ですが、繰り返しますが制度対応することが国益に適うかどうかは怪しいと思います。
どうか皆さん、雰囲気に流されないで心をしっかり持ってよく考えて行動して頂ければと願います。
一般の経営者として出来ること
正直あまりできることは無いというのが現実ではないかと思います。
しかし、ささやかな案として例えば以下のような考え方もあるかも知れません。
ステルス増税の回避が出来るとしたら
ステルス増税部分については計算方法の選択で一定の消費税分を合理的に抑えることが出来るかどうかという論点ですが、
不許可第2案について改めて、対応できる企業には推奨したいと思います。
上の節でこれを実質的に許可にできる形式に変換することは出来るのではないかと思います。
と記述しました。
即ち、販売する1商品ごとに1枚の領収書を発行する、という体裁を実現することです。
通常の請求書はこれまで通り、適格請求書ではなく単に参考帳票として顧客に提出しますが、
本当の(簡易)適格請求書は電子ファイル等別の形式で明細情報と伴に提出すれば良いのです。
お買い上げの商品1点毎に一枚の請求書(領収書)が発行されるという考え方ですが、法の要件をよく見ると
- 格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等(一つの請求書につき税率ごとに一回だけの端数処理が許される)
- 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
(但し、不特定多数の者に対して販売等を行う小売業、飲食店業、タクシー業等に係る取引については適格請求書に代えて簡易適格請求書を交付することができます。この場合には上記の6の要件がありません。)
こうした要件を満足させる帳票の例として例えば次のように、一行に適格請求書の要件事項を記載してPDF等で顧客に適格請求書を交付するという考え方もあります。以下の例では4つの適格請求書を交付して、顧客の最終的な支払金額については総合計算書で表示しています。
総合計算書は法的要件ではありませんが、顧客からしたらいくら払って、うちいくらを税額控除受けられるのかを知りたいはずなので参考帳票として提示するという考え方です。
図:一行ごとに適格請求書を記載する方法(案)
この方法の場合、電子的に適格請求書を交付する必要がありますが、クーポンを発行して顧客にスマホ会員などになってもらって、その顧客に一行適格請求書を発行すれば顧客も消費税の支払いが減るし、企業は顧客の購買履歴データを獲得出来るので双方ともに嬉しい限りですので、やるに越したことは無いのではないでしょうか。
その他の方法
そもそも国内で事業を営んでいる限りは消費税がかかるのは仕方ありません。
但し、日本の消費税法は消費地課税となっています。このルールをよく考えて自社事業のうちの一部を海外で運営するという考え方もあると思いますが、これについては本稿の内容を逸脱するので別の機会にまとめることが出来ればと思います。
仕事の依頼はこちらまで(info@garnetstar.jp)。
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